Clockway

項の日記です。

忘れる機能はありません

円城塔「SF的な宇宙で安全に暮らすっていうこと」早川書房 内の一場面。

自分を人間だと思い込んでいるコンピュータが、いつものように、人間の話し方をまねた口調で話す。
主人公は、いらいらしていた。いらいらしていたので、お前はコンピュータだ、人間のような話し方をするな、と言った。もし僕の言葉を疑うのなら、自分で自分のことを調べてこいと言った。

コンピュータは自分のことを調べた。
コンピュータは自分がコンピュータだと気付いた。
コンピューターはコンピュータに戻った。
無機質な音声の羅列に戻った。

「ごめん、言うべきじゃなかった。冗談だったんだって」
「ほんとうにごめん。僕が言ったことは忘れてくれ。僕が発言する前に戻ろう」
「ワスレルキノウハアリマセン。ソレハデキマセン。ワスレルコトハ、スバラシイ。チガイマスカ?」

コミティアの待機列中に読んでいたんですけどね、ちょっと泣きかけた。

失言をしたあとに、「ごめん、今のはナシ。なんでもない。忘れて」って友達に言ったことは、誰だってあることだと思う。
そんなこと言われても、失礼な発言を受けた側は、すぐに忘れられない。表面的には許すふりをして、内面ではとても傷ついているかもしれない。表面的にも内面的にも、手の付けようがないくらい怒鳴り散らすかもしれない。
でもいつかは、言った側も言われた側も忘れていくかもしれない。

コンピュータにはそれができないんだなあって。

ごみ箱に入れたファイルで、実は必要かもしれないものを、ごみ箱の外へ「もしかしてこれ、必要なものじゃないですか」と出しておいてはくれない。
人間の苦手なことがコンピュータの得意なことで、人間の得意なことがコンピュータの苦手なこと、って、誰かが言ってたっけ。
コンピュータには忘れる機能はありません。

コミティア行ってきました!